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サスペンション

【荷重移動】荷重移動についてもう少しだけ詳しい話 001
 「箪笥を押す時の荷重移動」
2008.07.21 chemi teru様より計算間違いをご指摘賜りましたので、訂正致しました。

※ 荷重移動に関する最も基本的なハナシは、当サイトの『クルマ関係Q&A』→『ドライヴィング理論』 →『荷重移動とはナニか?』を御覧下さい。  本稿はその知識があることを前提にした「もう少しだけ 掘り下げたハナシ」です。

 一般に「ロール剛性を上げると荷重移動量が増える」といわれています。
 私も(然したる根拠も持っていないクセに)何の疑問も持たず信じていました。
 というか、スタビライザーの仕組みを自己流に解釈して納得していたのです。
 「縮もうとするアウト側サスペンションの動きを使って、イン側のサスペンションを持ち上げてい るのだ」と。  そして、それをそのまま文章にしてココに晒しました。
その後は、永く見守って下さっている皆様もご存知の通り。  かめ様に「そうかな?」と柔らかく否定さ れてしまいました。

 読み直してみると叱られた小学生の反省文みたいですが、スタビライザーに関する記述を全面的に 書き直し、間違っていた古い記事と一緒に置いてあります。

 しかし、この記事だけで御理解下さる方ばかりとは限りませんでした。
 理解頂けない方もおられます。
 もちろん、分からないことは恥ずかしいことではありませんし、書き直した私の理論が尚も間違ってい るという可能性だってあります。
 ただ、前者であるなら、より平易かつ具体的(=力学モデルを図解するなどして理解し易くする)な説明を求め るべきですし、後者であるなら、散々思考した挙句に未だ間違った理論を展開している阿呆な私に向 けて、正しい理論を平易で具体的な説明を下されば良いのです。

 少なくとも、阿呆な私に向けて正しい理論(★注★ 私が欲しているのは「理論」であって「結論」ではありません) 御教示下さる方が登場しない限り、後者は可能性の範疇を出ませんが、前者がおられるのは間違い ないようです。

 既に御理解頂いている貴兄にお付き合いを強いるつもりは毛頭ありませんが、「荷重移動」を噺の枕 にサスペンションと云う物を多少なりとも深く掘り下げてみたいと思います。  「焦眉の急!」と御急ぎ でなければ、しばらくお付き合い下さいませ。


 さて、では早速【荷重移動】の説明を…と思ったのですが、その前に「言葉が持つ印象に因る情報操 作」について釘を刺しておきます。
 「ロール剛性を上げると荷重移動量が増える」という『結論』『理 由』として「硬いバネの方が柔らかいバネよりも踏ん張るから当然 だ」という『説明』をされる方がいらっしゃいます。
 ですが、バネは踏ん張るモノなのでしょうか?
 荷重の大小に比例して縮伸しているにすぎないのではないでしょうか。
 踏ん張るというのは、動物が地面の状態に対して『アクティブに』反応している姿を表現した言葉で す。
 したがって、「踏ん張っている」ということは、「脚」が「踏ん張らなければならない状態にある」ことを判 断し、自立して「踏ん張っている」のです。
 ただ単なる弾性体に過ぎないスプリングが荷重を受けて縮んでいるだけの状態を「踏ん張っている」 と表現することは不適切という他ありません。
 似た言葉に置き換えると、違和感がバリバリになります。
 「硬いバネの方が柔らかいバネよりも頑張るから当然だ」

 状態を能動的な言葉で表現すると、「能動」すなわち「行為」を伴っているようなイメージを抱いてしま います。
 「行為」があれば、それに因って「結果」が生じますから、「バネが踏ん張っている」と聞けば「踏ん張っ たことに因って何か変化が生じたのではないか?」と考えても不思議ではありません。  実際にそうい う疑問が生じなくても、「『バネが踏ん張っている』と『荷重移動が起こる』のだ」と聞けば、スンナリと受 け入れるのが普通です。

 しかし、バネは踏ん張りません。  荷重の大小を受けて縮んだり伸 びだりするだけです。
 同じ荷重で硬いバネの方が少ししか縮まないのは、単純にバネレートが高いから縮む量が少ないだ けです。
 体重70kgの成人男性がバネ秤に乗ったとしましょう。  最大測定重量120kgの体重計と、最大測定 重量1トン200kgの材料秤なら秤の受け皿は、どちらが多く沈むでしょうか?  普通の構造なら、体重 計の方が受け皿の移動量は大きいハズです。  でも、だからといって体重計に乗った方が体重が軽く なったり、逆に重くなったりすることはありません。  体重70kgの成人男性は、体重計で量っても材料 秤で量っても70kgです。
 体重70kgとは、バネ秤に掛かる荷重が70kgだということです。
 つまり、荷重はバネの硬さに関係がありません。
 言葉の持つイメージに惑わされないで下さい。
 「○○のような気がする」と「実際に○○が起こっている」は同じ意味ではありません。
 元々、“理(ことわり)”とは、そういう先入観を払拭して真実を見極めるために存在しているのです。   理詰めで現象を理解しようとするのであれば、先入観は捨てて下さい。  そうでなければ、スタートラ インに立つことさえ出来ないのです。

 洗脳は解けたかな?

 では、本文です。

 「全く可動できないガチガチのサスペンションでロールすれば、内 輪が浮く」という『具体例』を用いて「ロール剛性を上げれば荷重移動量 が増える」という『結論』『説明』される方がいらっしゃいます。

 一聞すると即効で信じてしまいそうになりますが、この発想には「内輪が浮くには、どれほど大きな遠 心力が必要なのか」という要素がスッポリ抜け落ちています。

 話を分かり易くするために、敢えてクルマ以外の例に置き換えてみます。

 畳や絨毯の上に洋服箪笥が置いてあります。
 箪笥は、自重で畳や絨毯に食い込んでおり、横から押しても水平方向に移動することは出来ません。

 

 この箪笥の幅は、1メートル。  重心高さも1メートル。
 重心高さも1メートルで、重心から鉛直に引いた線は、箪笥底の中心を通ります。

 

 重量が100kgとしましょう。
 そうすると、この箪笥の重心には100kgの重力が働いています。

 

 この箪笥を横に押します。
 梃子の話を絡めたくないので、重心高さで押します。



 そうすると、重心には重力と横力の合成力が作用します。
 合成力は、箪笥の底面へ(=畳や絨毯へ)着力します。

 

 合成力の着力点が、箪笥底の中心からどれだけズレるのか?
 それが単純な力学としての「荷重移動」です。

 

 したがって、合成力の着力点が、箪笥底面から外れてしまうと、箪笥の片側が浮きます。

 

 これは、実験することも可能です。
 適当な大きさ・重さの箱を床に立て、箱を秤で押してみましょう。
 秤は、調理の時に使う料理秤でOKです。

 秤を水平にして使うと、最初の数値がマイナスになりますが、数値の多寡に意味はなく、数値の変化 の仕方に意味があるので、そのままで構いません。

 箱を水平に押した際に、箱が横に動いてしまうようであれば、押される面の反対側の隅をセロテープ などで床に留めましょう。

 水平に押し始めても、しばらくは秤の数値が大きくなるだけで、箱は動きません。
 秤を押し付ける力(=箱を押す力)を強めていくと、やがて、押している面側の底辺が床から離れま す。
 さらに秤を押し付けると、押している面側の底辺がドンドン床から離れていきまますが、秤の数値は 大きくなりません。
 秤の中の摺動抵抗が小さければ、底辺が床から離れるにつれて秤の数値はドンドン小さくなって行 き、やがて箱が倒れます。

 注意して欲しいのは、合力が箪笥の底面よりも外側に着力しない限り、箪笥は傾かない(=箪笥の片 側は浮かない)ということです。
 クルマのサスペンションを全く可動できないように溶接したからといって、「僅かな旋回Gで内側タイヤ が浮く」という現象は起こりません。
 あくまで「浮くほど強い力で横から押されたから浮いた」のです。


 なお、箪笥にサスペンションを取り付けた場合、
 箪笥の底面の端が浮く前に、バネが縮んでバネ上の部位が傾くことになります。

 

 この傾きに因って、箪笥の底面の端が浮く前に、重心が横に移動してしまいます。

 

 合成力の着力点が箪笥の底面から食み出した時に底辺が浮くのですから、予め重心が偏っている 分、より小さな力で底辺が浮くことになります。

 以上、御理解頂けたでしょうか?
 普通の箪笥の話が『力の作用として起こる荷重移動』、サスペンションのある箪笥における重心の偏 りが『サスペンションの稼動に因って荷重移動に加わる質量の偏り』です。

 さて、では。
 クルマの場合について考えてみましょう。

 

 荷重移動の起こる仕組みは、箪笥の場合と何も変わりません。
 「重心から鉛直に地面に向かって働く力 [ 重力 ] と重心へ水平方向に働いているように見える“見せ 掛けの力” [ 遠心力 ]
 ふたつの合成力がトレッド幅の何処に着力するかによって、左右輪それぞれが負担する荷重の割合 が変化する」
 というだけのことです。

 これを数式化すると、 
 たとえば、車重:1200kg、
 重心高:50cm(0.5M)、
 トレッド幅(タイヤ接地面両端部幅):1.5M
 のクルマが旋回G:0.5で旋回するとき、
 [ 遠心力 ] = 1200(kg) × 0.5(G) = 600(kg)
 [ 荷重移動量 ] = 600(kg) × 0.5(M) ÷ 1.5(M) = 200(kg)
 平衡状態で左右輪の荷重はそれぞれ 1200kgの半分で600kg。
 これに200kgの荷重移動が発生するのですから、片側の荷重が100kg増えて、もう片側の荷重が 100kg減ります。
 つまり、外側前後2輪の合計荷重が600kgから700kgに増え、同時に内側前後2輪の合計荷重が 600kgから500kgに減るという計算結果になります。

 そして、これに『サスペンションの稼動に因って荷重移動に加わる質量の偏り』が加わります。

 

 この量は、(高度な解析を行わない限り)簡単に算出することはできません。
 とりあえず、「【荷重移動】とは、【力の作用】と【質量の偏り】であって、それ以外の要素をパラメータと して持たない」ということだけ御理解ください。
 走り屋の御託レベルの理解としては、(少なくとも荷重移動という概念に対する理解としては)それで 十分でしょう。


 そしてモチロン、遠心力がガンガン大きくなり続けると最終的に重力と遠心力の着力点が外側タイヤ よりもハミ出してしまい、内側タイヤが浮き横転モードへ移行します。

 しかし、

 

 ↑ のような特殊なサスペンション構造でない限り、内側タイヤが浮くほどまでに大きくロールすれば、 強く押し付けられている外側タイヤも接地面積が激減します。
 このように。

 

 接地面積が狭くなれば、発生し得る横力は小さくなり、クルマが横転しようとする動きを支えることが できなくなります。
 したがって、S字の切り返しなどロール方向に大きな慣性モーメントが与えられるような状況でなけれ ば、そう簡単に横転は起こりません。
 (逆に言えば、へら鹿回避テストのような無茶をすれば、比較的簡単にクルマは横転し得るということ になります)

 横転の話はチョッチ余談でしたが、着力点の話だけでは「だったら、急旋回でクルマは横転するハズ だな?!」と頭の悪いツッコミをされそうなので、一応釘を刺させて頂きました。


 〜以上が、【荷重移動】の基本概念です。
 これらを踏まえた上で、次の項【ロールと曲がる】へ進むことにしましょう。


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