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サスペンション

【荷重移動】荷重移動についてもう少しだけ詳しい話 002
 「ロール」と「曲がる」
2006.09.08 かめ様より間違いのご指摘を賜りましたので、訂正致しました。

 さて、いよいよサスペンションとロールの話に入り…たいのですが、その前に。

 またまた脱線しちゃいますが、これも大切な基本知識ですので、触れておきたいと思います。

 何十年も前と違って、最近(といっても、結構な昔から)はサスペンションセッティングに「ロールさせて 曲げる」という表現を使います。  現場で耳にしたり、雑誌で言葉を目にしたりしたことのある貴兄も少 なくないと思います。

 では質問。  クルマとはロールすると曲がるモノなのでしょうか?
 というか、[ ロール ] と [ 曲がる ] の関連性って何なのでしょうか?

 では、[ ロール ] と [ 曲がる ] の関係を理解するために、まず始めに全くロールしない、つまりサスペ ンションの無いクルマを想定して検証してみることにしましょう。
 乳幼児向けの木製玩具などは、そのまんまコレですね♪

 では、コレが旋回したとします。
 前の項で説明した「箪笥の重心に働く【水平方向の力】」が、コレには「車両の重心に働く【遠心力】」と して作用します。
 それに因って荷重移動が発生します。
 コレは、ロールしないので質量の偏りは生じません。
 路面が、地球の半径に沿う以外に全く完璧に平滑であるという理想状態だと仮定できるのであれば、 一見、この状態が最強に思えます。

 では、この状態でタイヤはどうなっているのでしょうか?
 ラジアルタイヤは、その構造上タイヤ内部に「ベルト」という筒を持っています。

 

 ベルトは、細いスチールワイヤーを複数本撚り合わせて作られたスチールコードというもので出来て おり、タイヤのカーカスを箍のように拘束しています。

 とりあえず、ベルトが完全な剛体であると仮定してみましょう。タイヤが接地面で横力(求心力)を発揮 すると、ベルトの接地面側が旋回円中心へ引っ張られます。

 

 そうすると、タイヤサイドは剛体ではありませんので、

 

 ホイールの軸とベルトの軸がズレてしまいます。

 しかし、実際のベルトは完全な剛体ではありません。
 それゆえに、横力を受けてベルトは歪みます。

 

 上の絵は少々大袈裟ですが、ゴム製でしかも空気入りタイヤは、ベルトという箍で強く拘束されていて も、旋回中に歪んでしまうのです。

 ということは、ホイールの回転軸が常に水平であれば、タイヤが求心力を発揮すると、タイヤの接地 面積は減り、同時に接地面圧の分布が偏ってしまうことになります。
 とうぜん、旋回性能は落ちるでしょう。

 では、どうすれば良いのでしょうか?

 一番簡単な対策は、タイヤの歪みに合わせて予めホイールの回転軸を傾けておくことです。
 つまり、予めタイヤを傾けておくことに拠り、タイヤが歪んだ時でも最大の接地面積と均等な接地圧分 布が得られるようにすれば良いワケです。

 

 ところが、この対策には問題があります。
 クルマの旋回方向は同じとは限りません。
 右旋回のカーブもあれば、左旋回のカーブもあります。
 もし、右旋回のカーブに合わせてホイールの回転軸を傾けてしまえば、そのクルマで左旋回すること は危険です。

 では、左右輪それぞれをネガティブ側のキャンバーになるよう車輪の回転軸を傾けてみては如何でし ょうか?

 

 旋回中は外側へ荷重移動しているのですから、内側のタイヤの条件を無視してでも外側のタイヤの 条件を整えてやることは、(少なくとも内側のタイヤの条件を整えて、外側のタイヤの条件を無視するよ りは)有意義なハズです。

 

 ガチガチに硬いハイレートなバネを組んだサーキットONLY車にアリガチな仕様ですが、これがBEST でしょうか?

 (もちろん、直進状態で仮想トーインは強烈に付くわ、タイヤは内減りするわ、駆動・制動力を路面に 伝えられないわ…と悪いことだらけですが…ココではソレはアッチへ置いといて、旋回状態のメリット/ デメリットだけを考えます)

 たしかに、旋回円外側にあるタイヤは、歪みに合わせた接地角度が得られます。  しかし、旋回円 内側にあるタイヤは、歪に合わせた接地角度とはマルっきり逆の角度になってしまいます。  というこ とはつまり、このやり方だと旋回円内側にあるタイヤは、幼児用木製玩具のようなキャンバー角ゼロ仕 様と比べても更に接地面積が減って接地圧分布が偏るという最悪の状態になってしまいます。  

 

 幾ら旋回円内側タイヤに掛かる荷重が小さいといっても、だからといって、最悪の状態で接地してい ても構わないワケではありません。  折角地面に接しているのですから、こちらも旋回円外側のタイヤ と同様に良好な状態で接地させてやれば、内外輪のグリップ力合計は更に大きくなって、より速く旋回 することが出来るハズです。

 旋回円外側にあるタイヤにしたって、横力の大きさに依って歪みの大きさが違うのですから、旋回G に応じて回転軸の傾きが変化するのが理想です。
 旋回円外側のタイヤもまた、キャンバー角固定がベストではありません。

 さて、たとえ完璧な理想状態の路面であっても、サスペンション無しのクルマは旋回中のタイヤの状 態に不満があることが分かりました。  では、これがサスペンション有りのクルマだったらどうでしょ う?

 たとえば、ストラット式サスペンションの場合、タイヤの回転軸はダンパーのブラケットに取り付けられ ていますから、ダンパーの角度が変わらない限り、ダンパーのロッドが出入りしてもキャンバーは変化 しない筈です。  ところが、ストラット式サスペンションはロワアームを介して車体に取り付けられてい ます。
 サスペンションが稼動するとき、ロワアームは車体側を回転中心とする円弧を描きます。  そのた め、ダンパーのタイヤ側の付け根(ブラケット)は、ロワアームの描く円弧上に在ることになります。

 

 タイヤの軸(=ハブ)はダンパーのブラケットと固定されていますから、
 ● ダンパーの角度が立っていればタイヤのキャンバーはポジティブ側に
 ● ダンパーの角度が寝ていればタイヤのキャンバーはネガティブ側に
 変化します。

 では、ダンパーの角度が最も寝る(=キャンバー角がネガティブ側に最大となる)のはどの状態の時でしょう か?
 それは、ロワアームの描く円弧に対してダンパーが接線となる時です。

 

 この↑時、キャンバー角がネガティブ側に最大となりますから、ロワアームの角度がそれ以上でもそ れ以下でも、ネガティブ度が小さくなります。

 


 さて、では。
 平衡時に車両前方(もしくは車両後方)から見て、ロワアームの角度が“ハ”の時になるように設定す ると、旋回時にどうなるでしょうか?

 

 外側のサスペンションスプリングは、増えた荷重に対して縮みます。
 この図↓では、ロワアームの角度が [ / ] から [ ― ] へ変化します。
 場合によっては、[ ― ] を超えて [ \ ] へ変化してしまうかも知れませんが、それでも、ロワアームの 角度が上述の「ダンパーとの間に成す角度が90°」を超えてしまわない限り、キャンバー角はネガティ ブ側へ変化していきます。
 

 逆に内側のサスペンションは、減った荷重に対して伸びます。  つまり、ロワアームの角度が水平か ら遠ざかります。  そうすると、キャンバー角度がポジティブ側へ変化します。

 

 ということは…

 

 このサスペンション設定でロールが起こると、外側のタイヤも内側のタイヤも回転軸の角度が適正な 方向へ傾くようになるではありませんかぁっ!


 なお、念のために書き添えておきますが、上図は少々誇張されています。
 まともに動くロワアームの仕事の一つが「ロールに伴う対地キャンバー角の適正化」にあることは確 かですが、上図ほど見事にキャンバー角が適正化することはありません。

 

 これ↑は、サスペンションの上下動に対するキャンバー変化がない場合の図ですが、実車の場合、 ストラットのロワアームが稼ぐキャンバーの適正化は、精々この↓程度です。

 

 これは、技術的にココまでしかキャンバー変化をさせることが出来ないというハナシではなく、タイヤ の歪みに対応したキャンバー変化が十分に発生するようにしてしまうと、他で不具合が起こってしまう からです。

 サスペンションの稼動量に応じてキャンバーの変化量を多くするのは簡単です。
 ストラット形式の場合は、ロワアームを短くしてしまえばOKです。
 ところが、同じダンパーの伸縮量に対してロワアームの角移動量が大きくなるということは、タイヤの 水平方向の動きが多くなることでもあります。

 

 この横水平方向の移動を「スカッフ変化」と呼びます。

 スカッフ変化の量が大きいと、うねった路面などに於ける走行安定性が低下してしまいます。  です から、安易にロワアームを短くしてキャンバー変化量を大きくするのは(すくなくとも公道での使用が)危 険なのです。

 また、サスペンションはロール以外でも伸縮します。  サスペンションスプリングの伸縮量に対してキ ャンバー変化量が多くなるということは、加減速などに因るサスペンションスプリングの伸縮でもキャン バー変化が多くなるということを意味します。

 つまり、たとえば制動時に、こう↓なっちゃうワケです.

 

 これでは、急制動時にタイヤの接地面積が少なくなって、タイヤが容易にロックしてしまうため、十分 な制動力が確保できません.

 と、云うワケで、ロールに依って発生するキャンバー角変化が常に最適になるように設計することは 無理です。  しかし、少なくとも全くロール出来ない幼児用木製玩具のようなクルマのタイヤにネガティ ブキャンバー角を付け、旋回円外側のタイヤ「だけ」良好な状態にするよりは百倍マトモな設定と言える のではないでしょうか。



 ちなみに少々余談ですが、「ダンパーがロワアームに対して直角になる時、キャンバー角がネガティ ブ側に最大となる」ということは、こういう↓設計も「アリ」なハズです。

 サスペンションが沢山縮まないとダンパーがロワアームに対して直角に至らないようにすれば、縮み ストロークに対してキャンバー角がネガティブ側へ変化する領域を広くできる…と。

 

 しかし、上図を御覧戴けば一目瞭然ですが、そういう構造に設計するとアッパーマウントの位置がエ ンジンルームやトランクルームを侵食してしまいます。
 「車両設計は空間の奪い合い」とも揶揄されていまして、エンジン、サス、居室&内装デザイン、トラン クルームデザイン、外観デザインがせめぎあって最も合理的な妥協点を目指します。
 そうした妥協点争いを考慮するなら、こういう設計↑は採り難いでしょう。



 …以上が「ロールさせて曲がる」の基本的な概念です。
 大昔の技術から脱却できない一部のプライベーターやチューナー(流石にクルマで飯食っていてこの程度の 知識もないってのは問題があると思うけど)の中には、跳ねさえしなければ、サスペンションスプリングは硬けれ ば硬いほど良いと考える向きが少なくないようです。  しかし、仕組みを理解して貰えれば、それが間 違っていると判って頂けるでしょう。



 おっと。

 「ロール」と「曲がる」という題名にしておきながら、大切なネタを華麗(加齢)にスルーしてしまうところ だった。
 ロールと曲がるの間には、もう一つの現象があります。

 いわゆる『ロールステア』というヤツです。

 ロールするとイン側のサスペンションスプリングが伸び、アウト側のサスペンションスプリングが縮み ます。
 この時にどのようなアライメント変化が起こるのかは、サスペンションの構造や各リンク長さに拠って 変わってくるのですが、上述のようなキャンバー変化でタイヤの接地状態を適正化させるようなジオメト リにして、アンチダイブ&アンチスカットジオメトリを考慮しすると、フロントサスペンションが縮み側にス トロークすると、基本的にトーがアウト方向へ、リアサスペンションが縮み側へストロークするとトーがイ ン方向へ変化します。
 この変化をロール姿勢に当て嵌めた場合、伸びているイン側サスペンションはフロントがトーイン,リ アがトーアウトになり、縮んでいるアウト側サスペンションはフロントがトーアウト,リアがトーインになり ます。
 ということは...そうなんです。
 こうした仕様のサスペンションは、ロール時にフロントの横滑り角が減り,リアの横滑り角が増えるん です。
 そうなると当然、フロントの横力が減って,リアの横力が増えますからヨー角運動は角速度を減じてア ンダーステア傾向に拍車を掛けます。
 これが所謂「ロールアンダー」の正体です。

 ですが、チュウイして欲しいのは、 「フロントの横滑り角が減り,リアの横滑り角が増えているだけで あって、タイヤの限界が上がったり下がったりしているのではない」という点です。

 つまり、見掛け上の舵角が減っているだけなのですから、舵角を増やせばヨー角速度は回復します。
 「ロールするとアンダーが強くなる」のであって「ロールすると限界が下がる」のではないということで す。

 ここんトコを取り違えるとセッテイングの迷宮に嵌まり込んでしまいます。
 チュウイしませう。



 さて、閑話が長くなり過ぎました。
 ページを替えて、「何故『跳ねさえしなければ、サスペンションスプリングは硬ければ硬い方が良い』と 考えてしまうのか?」について触れたいと思います。
 では、次ページへ♪


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