更新の際に構造を変える事があります。 構造を変えるとアドレスが一から再配分されますので
ブックマーク等でお気に入りのページに飛んだ際に、目的と違うページが表示されることがあります。
その場合は画面一番下の [ TOP ] からトップページへ移動して、トップページから
目的のページへ移動してください。 お手数ですがよろしくお願いいたします。


サスペンション

【荷重移動】荷重移動についてもう少しだけ詳しい話 003
 「ガチガチの功罪」
 さて、ここまでの説明で、基本的に「ガチガチのサスペンションよりも荷重に応じてストロークするサス ペンションの方が高性能」だということがお判り頂けたことと存じます。
 しかし、それでも尚、サスペンションチューニングといえばガチガチにハイレートなスプリングに替える ことがまかり通っています。
 では何故どうしてガチガチにハイレートなスプリングが愛されてしまうのでしょうか。
 その最大の理由は、サーキットやジムカーナなど極めて平滑な路面コンディションにおいて、Sタイヤ などの超ハイグリップタイヤを履いてタイムを削るためには、ガチガチにハイレートなスプリングへの交 換が必須になるからです。
 そうした“特別な環境において最速を叩き出す仕様”に憧れるオコチャマが仕様を真似るので、[ サス チューニング ] = [ ガチガチにハイレートなスプリング ] という無意味な公式が成り立ってしまうので す。
 では、何故「サーキットやジムカーナなど極めて平滑な路面コンディションにおいて、Sタイヤなどの超 ハイグリップタイヤを履いてタイムを削るためには、ガチガチにハイレートなスプリングへの交換が必 須」なのでしょうか。
 理由は幾つもあります。

 (1).普通、タイヤの生み出すグリップ力は、荷重に対して正比例に増加することはなく、荷重が増加 するにつれて摩擦力の増加量は衰え、やがて摩擦力が飽和します。
 フルスリックのような強烈ハイグリップなタイヤであってもこの特性は変わらないのですが、そうしたタ イヤは摩擦力の増加の衰えが少なく、「荷重が増えたのに幾らも摩擦力が増えない」というレベルに達 する遥か前にロードインデックスの限界に届いてしまいます。
 つまり、フルスリックのような強烈ハイグリップなタイヤは、その使用領域において荷重の増加と摩擦 力の増加がほぼ正比例するんです。
 ということは、荷重の下がるイン側タイヤを工夫して無理無理接地面積を稼がなくても、アウト側タイ ヤをより適切な角度で路面に押し当てる方が左右輪の合計摩擦力が大きくなるということが起こり得ま す。

 (2).柔らかいスプリングを使うとロールやピッチの荷重移動以外でもサスペンションが大きく稼動し ます。
   たとえば、スポイラーやウィング、カナードなどの空力装置が効くと車高が下がります。
   車高が下がればアライメントが変化します。
   1G静止荷重から荷重移動が起こるのと、空力などで車高が下がっている状態から
   荷重移動するのとを比べると、同じ荷重移動量であってもアライメント変化が異なってしまいます。

 (3).柔らかいスプリングを使うと、荷重移動量が同じであっても、サスペンションの稼動量が多くなり ます。
   アライメント変化量が適切であるなら、それ自体は問題にならないハズです。
   しかし、サスペンションの稼動量が多くなるということは少なくとも二つの弊害を生みます。
   −@.質量が移動するということは慣性重量が生まれます。
      これはバネ秤を思い浮かべて頂くと理解し易いと思います。
      500gまでしか量れないバネ秤に500gの荷物を載せると、皿が大きく沈んで
      針が500gの数字を指します。
      しかし、皿のストロークが長いバネ秤に荷物を載せると重力に引かれて荷物は落下し、
      バネの抵抗を受けて減速するという格好になります。
      そのため、(実際に実験して頂けば一目瞭然ですが)バネ秤の針は一旦500gを大きく
      越えた数字を示し、そこから戻りつ行きつを繰り返しながら、最終的に500gを指して
      止まります。
      もちろん、荷重に対する本来縮むべき量を超えたストロークや、行きつ戻りつな振幅は、
      クルマのサスペンションに於いてはダンパーという部品で抑えられます。
      しかし、完全に抑えられるワケではありませんし、ダンパーのピストンスピードが速いため、
      ダンパーオイルにキャビテーションを発生し易いなどの弊害を生じます。
      また、荷重移動に対して適切なアライメント変化になるよう緻密に設計されたサスペンション
      あっても、一時的であれ、適切な範囲を超えてストロークすることに因って生じるアライメント
      変化は、その荷重移動量に対して適切ではありえません。
      適切でないアライメント変化はタイヤのグリップ力を低下させるため、僅かな違いで僅かな
      タイム差を競うモータースポーツのチューニングとして不適切です。

   −A.サスペンションストロークが大きいということは、サスペンションがストロークし切るまで
      荷重がタイヤに伝わりません。
      これもバネ秤を思い浮かべて頂くと理解し易いと思います。
      500gまでしか量れないバネ秤に500gの荷物を載せると皿が大きく沈んで針が500gの数字を
      指します。
      バネ秤の自重が1kgなら、バネ秤と荷物の合計重量は1500g。
      もし、このバネ秤が更に大きな秤(皿が殆どストロークしない電子秤だと考えて下さい)に載せられて
      いるとしたら、その大きな秤の表示は1500gになるでしょう。
      しかし、荷物を皿に載せた瞬間から大きな秤の表示が1500gになるワケではありません。
      最初は、小さなバネ秤の自重1kg(1000g)を表示し、小さなバネ秤の皿が沈むに連れて
      大きな秤の表示が1500gに向けて増えて行くのです。
      つまり、ストロークの長い(=柔らかい)スプリングは、荷重移動がタイヤの摩擦力へ反映される
      までに、(ホンの僅かですが)時間が掛かってしまうのです。
      乗用車として遵法運転する限りに於いてこの特性は何の問題も生じませんが、
      モータースポーツの世界ではレスポンスが鈍いという評価になります。

 …こうした理由から「サーキットやジムカーナなど極めて平滑な路面コンディションにおいて、Sタイヤ などの超ハイグリップタイヤを履いてタイムを削るためには、ガチガチにハイレートなスプリングへの交 換が必須」になるのです。

 ところが、遵法で無くても公道を走るクルマにこのようなガチガチのサスペンションを組み込んだ場 合、効能よりも弊害の方が大きくなります。
 乗り心地が悪くなるのは当然としても、スポーツ走行でも支障が生じます。

 話を分かり易くするために、ちょっとだけ横道に逸れます。

 サスペンションチューニングの一手法として在る『コーナーウェイト』という調整を御存知でしょうか?
 一部のヴァカ向け低次元雑誌の記事などでは、「クルマを傾けてでも四輪のタイヤが受ける1G静止 荷重を出来るだけ均等化する」などとムチャクチャな記述をされていますが、根本的に間違っていま す。
 (まぁ、『コーナーウェイト』という名称が良くないのだと思いますが)『コーナーウェイト』は1G静止荷重 の均等化ではありません。  解り易い喩え話は、机や椅子の足でしょう。
 足が4脚で作りの悪い机や椅子で、一つの足が浮いてカタカタ動いてしまうという不具合が生じること は良く在ります。
 これは、足の長さが不揃いが故に、3脚が地面に着いている時に残りの1脚が浮いてしまうという現 象です。
 この理屈はクルマのサスペンションにも作用します。
 ですが、クルマのシャーシ自体が然程大して剛体でもなく、またサスペンションがバネを介しているた めに4輪のどれか1輪が宙に浮くという現象には至りません。
 しかし、そのような状態の4輪それぞれのサスペンションスプリングは、4輪それぞれに本来掛かって いる荷重に対して縮んでいるわけではなく、あるスプリングは余計に縮まされ、あるスプリングは縮めな くされているのです。
 原因はシャーシの歪みやサスペンションパーツの低精度など様々ですが、「歪みの無いシャーシと高 精度なサスペンションパーツに組み付けられた車高調のスプリングシートの高さがバラバラになってし まっている」のと同じような状態になっているワケです。
 ちょっと変な表現ですが、それはあたかも「4輪の内2輪だけが“突っ張って”いる状態」だと見ること が出来るでしょう。
 ノーマルの柔らかいスプリングでは、この“突っ張り”に対してスプリングが簡単に伸び縮みしてしまう ため、走行性能に与える影響が僅かしかありませんが、硬いバネを使うチューニングパーツの車高調 では [ “突っ張り”の差の多く ] = [ 接地圧の差 ] になってしまいます。
 そのため、シャーシの歪みやサスペンションパーツの低精度に合わせて、車高調のシートを微調整し て“突っ張り”を解消するのが『コーナーウェイト』という調整なのです。

 閑話休題。

 ちゃんとコーナーウェイトを調整してある車両であっても、サスペンションスプリングをガチガチに硬く してあると、公道など荒れた路面を走行中にコーナーウェイトの狂っているクルマと同じような状態にな ってしまいます。
 分かりますよね。
 走行中、1輪が路面の出っ張りを踏んだり、陥没に嵌ったり、うねりに煽られたりして、その1輪が持 ち上げられたり沈んだりしたら…持ち上げられた瞬間にその1輪と対角の1輪が突っ張り、沈んだ瞬間 に対角ではない残りの2輪が突っ張ることになります。
 そのような“突っ張り”が生む接地圧の変動が走行性能に悪影響を及ぼさないワケがありません。
 荷重変化に対してリニアに摩擦力を生じるスリックタイヤでは、4輪の摩擦力がバラバラにめまぐるし く変化してしまうため、それこそ限界速度よりも遥かに低速でさえ狙った走行ラインを通ることが出来な くなってしまうことさえあります。
 スリックタイヤに遠く及ばないSタイヤでもこの傾向は見られ、純然たる速さ自体は普通のハイグリッ プタイヤを遥かに凌ぐものの、ガチガチに固められたサスペンション+Sタイヤの組み合わせは、ドライ バーにとって心休まらない神経質な挙動を示しがちです。

 また、硬いスプリングは、同じだけの長さ縮むために柔らかいスプリングよりも大きい荷重を必要とし ます。
 それは、逆に言えば同じ長さストロークすると、バネ上に大きな力を加えてしまうことを意味します。
 高さ5cmのギャップを超える時、車高が全く変化しなければホイールレート1kg/mmのスプリングは 50kgの力でバネ上を持ち上げようとします。
 これがホイールレート2kg/mmのスプリングであれば100kgの力で持ち上げようとするワケです。
 これは単に乗り心地の悪さとしてだけではなく、バネ上の質量をカタパルトのように上空へ放り投げよ うとするため、その慣性重量によってギャップを乗り越えた直後の荷重が相殺されてしまいます。  荷 重が抜ければタイヤのグリップ力は失われるため、旋回中にギャップを踏んだだけでドリフトアウトした り、スピンモードに陥ったりすることになります。

 更に言えば、ガチガチに固められたサスペンションは、路面からの入力をしなやかにいなせないた め、タイヤが部分的にギャップへ乗り上げるとタイヤが大きく歪んで「同じタイヤの内側と外側で見掛け 上の径が違う」という現象が起こります。
 たとえば、タイヤの内側がギャップを踏んだ場合、タイヤの内側が凹むのでその部位の半径が見掛 け上小さくなります。  半径が小さいということは、同じタイヤの回転角度に対して進む距離が短いと いうことです。  ですから、タイヤの内側がギャップを踏んで凹んだ場合、タイヤの内側と外側で進む 距離が違ってしまいます。  タイヤの内側と外側で進む距離が違えば、そのタイヤ自体にヨーモーメ ントが発生することになります。
 タイヤに発生するヨーモーメントは、そのまま車体のヨーモーメントとして影響する他、前輪であれば キックバックとして作用し、ハンドリングに悪影響を与えます。



 ・・・以上の説明で、「公道を走る仕様にガチガチに固められたサスペンションは向かない」ということ が御理解頂けたかと存じますが、普通のタイヤ・・・すなわち、荷重と摩擦力が正比例しないタイヤを履 く仕様においても、ガチガチに固められたサスペンションが功を奏す場合があります。

 それはただ徒にロール量を減らすことを目的としてガチガチに固めたのではなく、低重心化を目的に 車高を下げた結果、サスペンションストロークが足りなくなって止む無くサスペンションスプリングを固め る場合です。
 再三書いている計算式の通り、重心を下げれば荷重移動量が減ります。

 たとえば、車重:1200kg、
 重心高:50cm(0.5M)、
 トレッド幅(タイヤ接地面両端部幅):1.5M
 のクルマが旋回G:0.5で旋回するとき、
 [ 遠心力 ] = 1200(kg) × 0.5(G) = 600(kg)
 [ 荷重移動量 ] = 600(kg) × 0.5(M) ÷ 1.5(M) = 200(kg) 

 この↑数式に於いてたとえば重心高さを40cmにすると、数式は 
 たとえば、車重:1200kg、
 重心高:40cm(0.4M)、
 トレッド幅(タイヤ接地面両端部幅):1.5M
 のクルマが旋回G:0.5で旋回するとき、
 [ 遠心力 ] = 1200(kg) × 0.5(G) = 600(kg)
 [ 荷重移動量 ] = 600(kg) × 0.4(M) ÷ 1.5(M) = 160(kg)
 になります。 

 普通のタイヤ・・・すなわち、荷重と摩擦力が正比例しないタイヤは、左右輪間の荷重移動量が大きく なると両輪が生む摩擦力が小さくなります(詳しくは、拙文【左右輪間で荷重移動しても両輪の生む摩擦力は同じで は? 】を御参照下さい)
 ですから、低重心化は、(スリックタイヤやSタイヤじゃない)普通のタイヤを履く仕様の運動性能向上に極め て効果が大きいのです。
 そのために車高調などで車高短にしてしまうのですが、車高短にすると既に【[002]「ロール」と「曲が る」】でも触れているように、アライメント変化が不適切になります。  また、限られたストローク内で底 突きしないようにするため、サスペンションのスプリングレートを上げなくてはなりません。
 走りのカテゴリ(グリップorドリフト)や路面状況にも拠りますので一概に言えませんが、低重心化の “功”とアライメント不適正化&バネレートUPの“罪”を天秤に掛けて、“功”が勝るなら、低重心化は有 効だと言えるでしょう。
 その辺の匙加減もまた、チューナーの腕の見せ所です。



 では次にページを改めて「スタビライザー」について説明したいと思………ったのですが………スタビ ライザーに関しては既に他の項で説明済みであり、特に付け足すこともありません。
 今更コピー&ペーストするのも手抜きみたいなので、「スタビライザー」に関しては古い記事を読んで 頂くことにして(その方がより酷い手抜きですが)、次は「ロワアームのアンチロールジオメトリ」について 説明したいと思います。
 「ロワアームのアンチロールジオメトリ」は普通耳慣れない言葉だと思いますが、要するに「サスペン ションアームのリンク位置に拠ってロールを抑制することが出来る」という理屈です。
 今回は図解の簡単なストラット構造のサスペンションについてのみ解説しますが、理論そのものは他 の構造についても同様ですので、「私の車のサスペンションは、ストラット構造じゃないもん」などと言わ ずにお付き合い下さい♪

 では次ページへ。


トップへ
戻る
前へ
次へ